「テクノロジー」という言葉は、とても広範囲で深い意味を持っていて、単なる機械や端末に限られません。元々は、ギリシャ語の「teckne(技巧・工芸)」と「logia(研究)」を合わせた「teknologia(体系的な処理)」という言葉に由来しています。
この2世紀の間に、「テクノロジー」という用語の使い方は大きく変わりました。1940年代に入ると、単なる工業技術研究にとどまらず、あらゆる機械、道具、武器、通信機器や輸送機器、そして、それらを作り使用するための技術までもが「テクノロジー」と呼ばれるようになりました。
より広い意味でとらえると、テクノロジーは実社会の問題を解決するために使われる道具、機械、技術を意味することになります。道具や機械とは、クギのようなごくシンプルなものから、粒子加速器や宇宙ステーションといった複雑なものまであります。また、物理的に存在するものに限らず、ソフトウェアやクラウドサービスといったバーチャル技術も、このテクノロジーの定義に当てはまることになります。
もっと大雑把に言えば、テクノロジーとは人間の目的を果たすための手段であると言えるでしょう。
このようにシンプルなものから非常に複雑なものまで多岐にわたるテクノロジーは、いくつかの分野にカテゴライズすることができます。この記事では、そのすべてを実用例と共にご紹介しましょう。
マテリアル分野
実用例:人工衛星のマイクロスラスタに使われる圧電材料、金属製品を保護するための自己修復コーティング剤
ある製品に求められる条件にもっとも合う特性を持った材料を選定する研究を総合して、材料技術と呼びます。機械の耐用年数の間、摩耗や腐食、あるいはその他の損傷に耐えられるよう、素材の性能を維持する研究も材料技術の一つです。
素材にはそれぞれ異なる特性があるので、色々な素材を混合することで面白い特徴が生まれ、新たな応用も可能になります。
近年の材料技術の進歩によって、「スマートマテリアル」と呼ばれる新たな機能性を持った素材も生まれました。これは、光や湿度、温度といった外部からの刺激に反応するという特徴を持っています。
カーボンナノチューブ、グラフェン、圧電材料といった革新的な素材が、この10年の間に開発され、実験にも成功しています。
材料技術は材料科学とも密接に関連しています。材料科学が新素材(特に固形材料)の開発・発見を目的としているのに対して、材料技術は製品を改善するための技術や実験により重点を置いています。
機械分野
実用例:ロボットを使った車の製造、3D プリンター、発電所
機械部品や材料を組み合わせることで機能的な構造を作り出し、動きをコントロールしたり伝達させる技術を、機械技術といいます。たとえば自転車のブレーキや、ドアの掛け金、車のトランスミッションのギアなどです。
機械工学技術者と呼ばれる人達は、製品設計や材料科学、有益な製品や製造機械を作り出す製造プロセスの工学原理を応用し、主に機械や自動化装置の継続的なメンテナンスにおけるトラブルシューティングの役割を果たしています。
具体的には、圧力や緊張、構造物のせん断力、曲げによるたわみ、ベアリング、クラッチ、剛体の力学、運動、回転体の質量のバランス、自由振動、液体の流れ、実在流体の熱力学的挙動といったものの解析、その他多岐にわたる作業が、この機械工学技術者の仕事です。
エネルギー、石油、原子力、自動車、航空宇宙、製造、工業デザイン、製品開発といった専門分野にも、機械技術を応用することができます。
医療分野
実用例:聴診器、ペースメーカー、人工呼吸器、CTスキャン、手術用ロボット
医療テクノロジーとは、科学を応用して、病気やケガ、その他の健康問題を予防するための技術であるとよく定義づけられます。先進機器によって病気を発見したり、患者を治療したり、健康状態を観察することも含まれます。
広義的には、医療設備や、システム、施設、薬以外の治療手順といったものが医療テクノロジーの対象です。医療機器には、装置、器具、デバイス、インプラント、試薬、ソフトウェアといったものが含まれます。
シリンジや血圧計といった器具から、レントゲンやMRIのような医療画像診断機器まで、さまざまな医療機器が、診断・予防・観察・治療・症状の緩和などに、幅広く活躍しています。
ヘルスケア分野において、もっとも重要な技術革新の一つに3Dプリント技術があります。専門的な人工装具や、マウスピース、不活性インプラントの部品のほか、個人に合わせてオーダーメイドで作る人工臓器などに、この3Dプリント技術が使われています。
また、この10年間に、ロボット工学がヘルスケア分野に大きな貢献をもたらしました。外科医のさまざまな面倒な作業を、ロボットがサポートしてくれるようになったのです。たとえば、外科医が体内の組織を折り曲げたり回転させるといった複雑な動きが、手術用ロボットアームを使うことで、より効率的かつスムーズに行えるようになりました。
電子工学分野
実用例:コンピュータ、スマートフォン、デジタルカメラ、レーダー、電源、回路計、インタラクティブセンサー
電子工学は、真空内や固体物質中の電子の放出、流れ、制御に関わるあらゆる現象を取り扱います。そして、システム内で電子や電場に働きかけることで意図した動作を生み出す物理的な部品すべてを電子部品と呼び、たとえばコンデンサ、抵抗器、インダクタ、ダイオード、トランジスタといったものが挙げられます。
電子工学を用いて作られる主なものとして、受動部品、能動部品、固体デバイス、オペアンプ、AFアンプ、RFアンプ、オシレーター、変調器、電子回路、電源などがあります。また、太陽電池・LED・光ファイバーなど光電子工学技術を用いた製品もあります。
多様な科学技術研究が、電子工学にさまざまな形で密接に関連しています。これにより、家電をはじめ、軍事用、工業用製品など、幅広い電子機器を生み出すことができるようになりました。
2021年現在、多くの電子機器は半導体によって電子制御を行っています。このような半導体を用いた電子機器が、現代のテクノロジーの大部分を担っているといっても過言ではありません。
たとえば、シリコン集積回路も半導体を用いた電子部品の一つですが、これはあらゆる場面で応用されています。日常で使う家電製品や車をはじめ、人工衛星にまで使われているのです。さらに、情報通信や信号処理、情報処理に至るまで、このシリコン集積回路は幅広く利用されています。
通信分野
実用例:LANケーブル、文字多重放送、インターネット、無線転送技術、GPS
通信技術とは、配線またはリンクシステムを介して、視聴覚ネットワークや電話網をコンピュータネットワーク上に集約する技術を指します。
ネットワークアプリケーションや、ある地点から別の地点へデータを送ることに特化したコンピュータ機器なども開発され、こういった近年のコンピュータ機器の進歩によってネットワークが向上しました。
通信分野と一口に言っても、デジタル形式で情報を受信・保存・検索・処理・発信するすべての機器を含むため、非常に幅広く、また常に進化し続けている分野でもあります。ラジオやテレビ、携帯電話、通信機器、衛星システム、そのほか様々なサービスがこの通信分野に含まれます。
つまり通信技術は、ITインフラの要であると言えるでしょう。通信技術の進歩によって、私的あるいは公的なネットワークを通じて、情報を交換したり、転送したり、提供することが可能になったほか、データ資源を管理し、質の高いサービスを提供することができるようにもなりました。
さらに、宇宙でも通信技術が使われています。たとえば、NASAをはじめとする機関では、宇宙でより多くのデータを素早く転送するために、自遊空間光通信というシステムを採用しています。
原子力分野
実用例:電気エネルギーの生成、放射線治療、火災報知器、使い捨て容器の殺菌、宇宙でのミッションに使われる放射性同位体熱電気転換器
原子核は変化する際に大量のエネルギーを放出します。ある特定の元素の原子核を操作・制御して変化させることにより、有用なエネルギーに変える技術を、原子力技術と呼びます。
これは、原子力発電所で発電をする際に広く使われている技術です。原子力を使うと効率的かつクリーンに水を沸騰させて蒸気を作り出すことができ、それによってタービンを回転させて電気を起こします。
原子力発電所では、ウランやプルトニウムといった元素の核分裂反応(原子核が2つ以上の小さな原子核に分裂する反応のこと)を利用して発電しています。
多くの発電所で燃料として使用されているのは、ペレットと呼ばれる、焼き固められた小さな円柱形のウランです。指の爪ほどの大きさのペレット1個が、天然ガスにして17,000立方フィート分、石油にして3バレル分、石炭にして1トン分ものエネルギーになります。具体的には、1キログラムのウラン235を核分裂させると、約1,850万キロワット時の熱が放出されます。
また、原子力は、深宇宙探査においても長期的かつ確実に電力を供給してくれる動力源であり、実際に原子力電池を使って、何年もの間無人で活動を続けている宇宙船が存在します。太陽系の外部を探査するために1977年に打ち上げられた「ボイジャー1号」と「ボイジャー2号」は、今日に至るまで地球にデータを送り続けているのです。
発電だけでなく、原子力技術は射撃照準具や医療におけるX線撮影、機械や器具の殺菌などに使われています。
バイオ分野
実用例:微生物を利用した牛乳やパンなどの有機食品の製造、生物を使って鉱石から金属を抽出する手法(バイオリーチング)、生物兵器の製造
バイオテクノロジーとは、生体系や生物を使って別の製品を作り出す技術です。遺伝学をはじめ、生化学、分子生物学など、研究分野は多岐にわたります。
現代のバイオテクノロジーの進歩によって、画期的な技術や製品が次々と生み出され、重篤な病気や希少疾患の治療、環境への悪影響の軽減、クリーンエネルギーの活用、より安全で効率的な工業生産プロセスなどに貢献しています。
用途に応じて、バイオテクノロジーは以下の7種類に分類することができます。
・レッドバイオテクノロジー:ワクチンや抗体、人工臓器、診断テスト、再生医療など。
・グリーンバイオテクノロジー:害虫駆除や作物の施肥、厳しい気候や微生物に耐えられるよう作物を強化する技術。
・ホワイトバイオテクノロジー:工業製品の製造に利用される省エネルギー技術。生物や酵素を設計して有益な化学物質を作ったり、有害な化学物質を取り除くことができます。
・ブルーバイオテクノロジー:微細藻類などの海洋資源を開発して、製品開発や工業用途に応用する技術。
・イエローバイオテクノロジー:食品製造に特化した技術。たとえば、料理油に含まれる飽和脂肪酸を減らす研究など。
・ゴールドバイオテクノロジー:高度な計算手法を用いて、生物学的情報(特にDNAやアミノ酸配列に関する情報)を取得、保存、解析し、分離する技術。構造ゲノミクス、機能ゲノミクス、プロテオミクスなど、多くの分野で非常に重要な役割を担っています。
・グレーバイオテクノロジー:環境問題に取り組み、生物多様性の保全や汚染物質の除去を行う技術。
2021年現在、実用化されているバイオテクノロジーを使った医療製品やワクチンは250種類以上存在しているほか、世界中で1400万人以上の農業従事者が、収穫量を増やしたり、害虫の被害を最小限に抑えるためにバイオテクノロジーを利用しています。
さらに、アメリカでは200以上のバイオリファイナリー(バイオマスを原料にバイオ燃料などを精製する工場)が建設され、再生可能なバイオマスからバイオ燃料や化学物質を製造する技術の検討・改良が進められています。
IT分野
実用例:eコマース、クラウドコンピューティング、インターネットバンキング、音声認識、侵入検知システム、ウェブ広告
今日では、「IT(Information Technology)」という言葉は、人々がコンピュータを使って行うことすべてを指すようになりました。主に対象となるのはコンピュータやコンピュータネットワークですが、電話やテレビ、インターネットなど、その他の情報流通技術も含まれます。
今では多くの企業にIT部門が設置され、コンピュータを管理したり、データベースを作成・管理したり、情報システムの効率性やセキュリティの確保に努めています。また、近年のソフトウェアの進歩のおかげで、企業は情報をより正確に分析できるようになり、隠れたパターンを発見したり、正確な情報に基づいた意思決定をすることができるようになりました。
この10年間、テクノロジー関連の大手企業は、人工知能や機械学習の開発に力を入れてきました。その結果、コンピュータがリアルタイムの情報をもとに「人間のように」意思決定をすることができるようになりました。現時点ですでに、人工知能は人間よりもはるかに優れた方法で、さまざまな作業を行うことができています。たとえば、以下のようなことです。
・過去の傾向に基づいて将来の結果を予測する
・非効率的な業務を発見する
・複雑な分析作業を自動化する
・計画を実行する
・学習して成長する
IT分野のもう一つの革新的な発明に、ブロックチェーンがあります。ブロックチェーンとは、もっとも安全な方法で情報を保存することができるデータベースのことで、この技術により、取引ネットワーク上で共有されるデータの安全性、透明性、追跡可能性が向上しました。
量子力学の現象を利用した量子コンピューティングも、ITの範疇に入ります。むしろ、この量子コンピューティングが次世代のIT分野の発展において大きな飛躍をもたらすものと期待されているほどです。
よくある質問
Q:最新テクノロジーの具体例を教えてください。
最新テクノロジーは、スピードや効率の向上をもたらすだけでなく、情報サービスへのアクセスや利用をより快適にしてくれています。
もっとも代表的な例を以下にご紹介しましょう。
5G:この第5世代のモバイルネットワークによって、すべての機械やデバイスの同時接続が可能になると言っても過言ではありません。データ通信速度は4Gの100倍で、遅延やデータ容量、ビットエラーレートといった問題も格段に向上すると言われています。
暗号通貨:この新しいデジタル通貨は、画期的ではあるものの、しばしば誤解をされがちな存在でもあります。暗号化されており、中央集権的な発行主体が存在しないため、国家や中央当局の管理下に置かれることはありません。
5,000種類以上もの暗号通貨が存在しますが、代表的なものとしてビットコインやイーサリアムがあります。
手術用ロボット:体にできるだけ負担の少ない手術を可能にします。このロボットによって、さまざまな複雑な手順を、従来よりも正確かつスムーズに行えるようになりました。ロボット支援による手術は、アメリカやヨーロッパ各国の病院で積極的に導入され、色々な症状の治療に活用されています。
拡張現実(AR)と仮想現実(VR):ARがスマートフォンのカメラなどを使って、実在する風景にバーチャルな視覚要素を加えるものであるのに対し、VRは、現実世界を遮断して完全な没入感を得るものです。どちらも、ゲームをはじめ従業員のトレーニング、デザイン、エンターテインメント、医療、教育など様々な分野で広く使われています。
ディープニューラルネットワーク(DNN):皆さんも気づかないうちに、ニューラルネットワーク(機械学習の手法の一つ)を用いた製品をすでに使っているかもしれません。この技術は、AlexaやSiriのような音声アシスタントをはじめ、NetflixやAmazonに見られる商品のレコメンド機能、テスラの自動運転機能などに使われています。今後も続々と関連製品が登場するでしょう。
Q:テクノロジーのマイナス面は?
ほぼすべての産業にテクノロジーが用いられていますが、どんなものにもメリット・デメリットがあるように、もちろんテクノロジーにもメリット・デメリットは存在します。
【メリット】
簡単に情報へアクセスできる
優れたコミュニケーションツールである
新しい発見の手助けになる
持ち運びが容易である
再生可能エネルギーの開発
あらゆる分野で生産性が向上した
【デメリット】
情報の信頼性に偏りがある
プライバシー面の不安
社会との断絶を生む
印象操作のリスク
雇用がなくなる可能性
ソーシャルメディアやコンピュータゲームへの依存
Q: マイクロテクノロジーとナノテクノロジーの違いは?
マイクロテクノロジーとは、1マイクロメートル単位の非常に小さなものを対象とした研究・技術革新の分野です。
化学的・物理的プロセスに注目し、マイクロコンピュータ部品、超小型電子技術、超微細手術、宇宙用マイクロデバイスなどの開発を行っています。
マイクロテクノロジーを用いた部品は、たとえば血圧計や自動車のエアバッグ、インクジェットプリンターなど、さまざまな製品で重要な役割を果たしています。
一方のナノテクノロジーは、マイクロテクノロジーよりもはるかに複雑です。1ナノメートルから100ナノメートルの大きさの物質を研究し、制御する技術を指します。たとえば、人間の髪の毛と比較してみると、髪の毛の太さは平均して80,000ナノメートルです。このような微細なスケールでは、量子力学的な影響が顕著に表れます。
ナノテクノロジーの用途はきわめて幅広く、新素材の開発から、DNAオリガミ技術で作成したナノロボット(人体のこれまで到達できなかった領域まで薬を運ぶことができる)の合成まで多岐にわたっています。