ブラックホール、それは宇宙の中で最も魅力的な天体の一つです。ブラックホールの持つ非常に強い重力からは、惑星も、月も、そして光さえも逃れることができません。
ブラックホールの脱出速度が光速を上回る境界線である「事象の地平面」を越えたものは、未知の運命に向かって激しく回転し始めます。
近年、物理学者たちは、ブラックホールに関する多くの未知の事実を発見してきました。その中には未来への礎となる発見もあれば、未だに研究者たちの頭を悩ませ続けている発見もあります。この記事では、ブラックホールについて知っておきたい15個の興味深い事実と理論を紹介します。
1916年にカール・シュヴァルツシルトによって発見された
18世紀には既に、光が逃げられない強烈な磁力場の存在が考えられていました。しかし、1916年にカール・シュヴァルツシルトに一般相対性理論の誤差のない解を初めて求めたことで、ブラックホールというものが特徴づけられたのです。
1958年にはデビッド・フィンケルシュタインが「何も逃れられない空間の範囲」というブラックホールの解釈を発表しました。その後、アメリカの理論物理学者ジョン・ホイーラーが「ブラックホール」という言葉を「20世紀前半に重力崩壊を興すと予言されていた物体」と結びつけたのです。
彼は、1967年にNASAのゴダード宇宙科学研究所で行った講演で「ブラックホール」という言葉を使いました。
直接観察できない
ブラックホールの巨大な重力から光は逃れられないので、ブラックホールを直接観察することはできません。しかし、ブラックホールの重力が近くの天体やガスにどのように影響しているかを見ることはできます。
天文学者は星がブラックホールの周りを回っているか、それとも飛んでいるかを調べる研究をしています。星とブラックホールが接近すると放出される放射線を宇宙望遠鏡や衛星で検出しているのです。
2019年に、科学者たちはブラックホールの画像を初めて撮影しました。そのブラックホールは5億兆キロ離れた場所にあり、世界中の8つの望遠鏡を用いて撮影されました。この超大質量ブラックホールは400億キロメートルにわたる大きさを持ち、太陽の65億倍の質量がありました。
ブラックホールにも種類がある
ブラックホールには4つのタイプがあります。その内3つは実在しているもの、1つは仮説上のものです。
恒星質量ブラックホール
このタイプには太陽の5倍から数十倍ほどの質量を持つ小さなブラックホールが属しており、大きな星の重力崩壊によって形成されます。
超大質量ブラックホール
このタイプには太陽の数十万倍から数十億倍の質量を持つ最大のブラックホールが属しており、その起源はまだ未解明の部分が多いです。
中間質量ブラックホール
このタイプには、恒星質量ブラックホールよりも質量がかなり大きい一方、超大質量ブラックホールには及ばないものが属しています。このタイプの天体が存在することへの最も有力な証拠は、ある低光度の活動銀河核から得られました。
原始ブラックホール
原始ブラックホールは、ビッグバンの直後に形成されたと考えられている仮説上のブラックホールで、その質量は恒星の質量よりはるかに小さい可能性があります。スティーヴン・ホーキング博士はこのタイプのブラックホールを深く研究し、その重さが100マイクログラムほどしかなかったかもしれないことを発見しました。
3つの層を持つ
ブラックホールは、特異点、外側と内側の事象の地平面の3層で構成されています。
ブラックホールの中心は「特異点」と呼ばれており、この領域ではあらゆる質量をもつものがほぼゼロの体積まで圧縮されます。そのため、特異点は無限大に近い密度を持ち、巨大な重力を生じるのです。
外側の事象の地平面は、ブラックホールの重力から逃れることのできる最外層のことです。この層へはたらく重力は中心や中間の層と比べてあまり強くありません。
内側の事象の地平面は中間層です。この領域では物質は逃げることができず、重力の影響が最も強いブラックホールの中心に向かって押し出されます。
ミリまで小さくなる場合も
ブラックホールの質量は、月くらい小さい場合から、太陽の100倍くらい大きい場合まであります。
その質量は、シュヴァルツシルト半径として測定される事象の地平面の大きさに比例します。シュヴァルツシルト半径とは、脱出速度が光速と等しくなる半径のことです。
地球のシュヴァルツシルト半径はビー玉くらいの大きさなので、地球をブラックホールにするためには、地球をビー玉の大きさまで圧縮しなければなりません。
また、ブラックホールは無限に小さいわけではなく、最小でもプランク質量以上、つまり約22マイクログラム以上の質量を持っています。
軸の周りを回転している
星が非常に小さな体積に圧縮されてもその質量は失われないので、角運動量を維持するためにブラックホールの回転速度は速くなります。
ブラックホールが回転すると、ブラックホールの質量により周りの時空も回転を始めます。この領域はエルゴ球と呼ばれ、事象の地平面の外側に位置しており、さまざまな興味深い事象が起こります。
事象の地平面が小さいほど、ブラックホールの回転は速くなります。しかし、ブラックホールがその特異点を他の宇宙に現すことなく回転するという条件のもとでは、回転の速さに限界が存在します。
天の川銀河の中で最も重い恒星質量ブラックホールであるGRS 1915+105は、1秒間に1150回回転しています。また、NGC1365という銀河の中には光速の84%もの速度で回転しているブラックホールがありますが、この速度は宇宙の限界速度に達しているため、これ以上早く回転することはできません。
音を出している
2003年に、天文学者たちはNASAのチャンドラX線観測衛星を用いて、地球から2億5000万光年の距離にある超大質量ブラックホールから音波を検出しました。この「音」は、天体から検出されたものの中で最も深い音です。
ブラックホールが何かを吸い込んだとき、事象の地平面は音を生じながら粒子に光速近くまでエネルギーを与えます。宇宙望遠鏡は、音源であるブラックホールから何百光年もの距離を旅してきた音波を捉えるのです。
しかし、真空では音は伝わらないのに、なぜブラックホールの音が聞こえるのでしょうか?実は、宇宙空間は完全な真空ではないのです。宇宙空間は1立方メートルあたり数個の水素原子(その他の気体も少し含む)で構成されており、これらの原子が超低周波の音波の媒体となっているのです。
空間と時間を歪める
ブラックホールは、極端に強い重力の影響で近くの時空を歪ませることがあり、一般相対性理論によると、ブラックホールに近づくほど時間の流れは遅くなります。
事象の地平面とは、光を含むあらゆる物質が逃げる力を失う、ブラックホールの周りにある境界線のことです。重力は事象の地平線上では一定となっています。
回転しているブラックホールは、「フレームドラッギング」という不思議な現象が引き起こします。この現象が起こると、ブラックホールに近い空間と時間が、その名称の通りブラックホールに引きずられてしまいます。空間は逆方向に動くことができないほど強く引きずられます。歪みがブラックホールに向かって無限に進み続けるので、空間が前に進むことができなくなるのです。
全体として、私たちが知っている古典物理の法則は事象の地平面の内側では通用しなくなるので、無限の密度とゼロの体積を持つものを考えることは、実際には不可能です恐ろしい方法であなたを殺すことができる
もしブラックホールに落ちたら、あなたの体は長いスパゲッティのようなひも状に引き伸ばされてしまうでしょう。
落ちたのが小さなブラックホールだとすると、体が重力のすさまじい潮汐力によって歪められてしまいます。潮汐力とは、頭にかかる重力と足にかかる重力の差のことです。もし頭から落ちた場合、頭にかかる力は足にかかる力よりもはるかに強くなります。
この差によって、何かに引き裂かれているような、頭からつま先まで引き伸ばされているような感覚になるでしょう。頭がブラックホールに近づくほど、中心へ向かう頭の速度は速くなります。しかし、下半身はまだ離れた場所にいるので、中心に向かう速度はそれほど速くありません。
潮汐力があなたの体の肉を形成している分子力を超えると、体は2つに割れ、その2つの破片はさらに2つに割れ…。あなたはチューブから押し出される歯磨き粉のように、時空間から押し出されていくのです。
物質を吸い込まない
ブラックホールは、真空状態の宇宙で周りの物質を吸い込んでいると思われていることが多いですが、これはよくある誤解です。ブラックホールは、他の天体と同じように、周りの空間に巨大な重力の影響を及ぼします。この重力による引力で、周りの物質を急激に加速させるだけです。
太陽を同じ質量のブラックホールに置き換えたとしても、地球は落ちてきません。そのブラックホールは、太陽と同じ重力場を持っているからです。地球や他の惑星は、いま太陽の周りを回っているのと同じように、ブラックホールの周りを回り続けるでしょう。
加えて、太陽はそれほど大きくないので、ブラックホールに変わることもありません。
超大質量ブラックホールがほとんどの銀河の中心に存在する
研究者たちは、天の川銀河を含むほとんどの銀河の中心には、超大質量ブラックホールが存在すると考えています。実際に、これらの大きなブラックホールは、数多くある銀河を宇宙の中でまとめる役割を果たしているのです。。
天の川銀河の中心に位置するブラックホール「いて座A」は、太陽の400万倍の質量があります。地球からわずか2万6千光年の場所にあるいて座Aは、近くで物質が流れている様子を実際に宇宙飛行士が観測できる、宇宙でも数少ないブラックホールのひとつです。
宇宙には数えきれないほどのブラックホールがある
私たちの銀河系だけでも1億個以上の恒星質量ブラックホールがあり、さらにその中心には超大質量ブラックホールの「射手座A」があります。1,000億個近い銀河がそれぞれ、超大質量ブラックホールひとつと1億個の恒星質量ブラックホールを持っており、さらに、ほかにも研究中のブラックホールのタイプがあるのです。
宇宙にあるブラックホールの数を数えようとすることは、地球上の砂粒の数を数えようとするようなものなのですね。
どんな物体でもブラックホールになりうる
ブラックホールになるのは星だけではありません。理論上は、どんなものでもブラックホールにすることができるのです。
例えば、太陽を質量は保ったまま直径6kmに圧縮すると、ブラックホールになります。圧縮後の密度は天文学的なレベルに達し、信じられないほど強い重力が発生するでしょう。
同じ理論が、地球だけでなく、携帯電話や自動車、自分の体などあらゆる物体に当てはまります。 しかし、物体の質量を100%保ったまま、体積を無限に小さくするような技術は一つも知られていません。
時間が経つと蒸発してしまう
1974年にスティーブン・ホーキング博士は、ブラックホールは少量の素粒子を放射することで、長い時間をかけて徐々に質量を失って消えていくのだという理論を提唱しました。この消滅の過程は「ホーキング放射」と名付けられています。
この黒体放射は、事象の地平面付近の量子効果によって起こります。この過程は信じられないくらい遅いため、宇宙が生まれてからの138億年の間で完全に消滅することができたのは、最小のブラックホールだけだったでしょう。
超大質量ブラックホールが銀河系内の星の数を決めている
ブラックホールの活動と星の数には、バランスのとれた関係があります。星の数が多すぎると、銀河の温度が高すぎて生命が進化できなくなり、逆に星の数が少なすぎると、生命の誕生が妨げられます。
今回の研究では、超巨大ブラックホールが大質量銀河の星形成をどのように制御しているかが明らかになりました。近傍の大質量銀河における星形成の歴史は、中心にある超巨大ブラックホールの質量に依存していることがわかりました。
巨大なエネルギー源である
ブラックホールは、太陽のような小さな星と比べて効率よくエネルギーを生み出します。
事象の地平面付近では重力の影響が非常に強いため、事象の地平面の縁に近い物質は、事象の地平面の外側、つまりブラックホールの外層にある物質よりもはるかに速く、ブラックホールの周りを回ります。
非常に速く動くことで物質は数百万度まで加熱され、その質量が黒体放射と呼ばれる放射線の形でエネルギーに変換されるようになります。
ブラックホールは、質量の10%をエネルギーに変えることができます。ちなみに、核融合では質量の0.7%しかエネルギーに変換しません。
研究者は、このようなエネルギーを使って発電所や宇宙船を作ることが物理的に可能かどうかも研究しています。
ブラックホールが新たな宇宙を創造する可能性がある
変なことを言っているように聞こえるかもしれませんが、ブラックホールが新たな世界を開くと考える物理学者たちもいます。私たちのいるこの宇宙もブラックホールの中から生まれたのかもしれないのですから、この宇宙の中にあるブラックホールがさらに新しい宇宙を生み出しているかもしれないですよね。
この仕組みを理解するために、私たちのいる現在の宇宙を思い浮かべてみましょう。私たちが見ているものは全て、過去に起こった一連の出来事と、生命を生み出したいくつかの条件が組み合わさってできています。
もしこれらの条件や出来事がほんの少しでも変化したら、同じものは存在しなかったはずです。「特異点」は理論上、これらの条件を変化させ、わずかに異なる新しい宇宙を創り出すことができるのです。
情報はブラックホールから逃れることができる
ブラックホールを通過した粒子の情報はどうなるのでしょう?物理学者たちは何十年間も、この問いに答えようと奮闘してきました。
量子物理学の法則では、情報は永久に破壊できないとされています。しかし、もし情報がブラックホールから逃げ出せないのなら、完全に破壊されたことになり、量子力学のルールに反するように見えてしまうのです。
スティーブン・ホーキング博士によると、情報がブラックホールに入ることは決してないそうです。
情報は人々の予想に反して、ブラックホールの中にではなく、ブラックホールの境界である事象の地平面上に保管されているのだ。─ スティーブン・ホーキング
物体がブラックホールに入ると、情報が取り出されて事象の地平面上に保管されるのです。ブラックホールの中で物体が破壊されても、情報は事象の地平面上に留まったままになります。
取り残された情報はホーキング放射とともに出てくることもできますが、役に立たない無秩序な形で出てくることになります。別の宇宙に出ていくことも考えられるのです。ホーキング博士は、ブラックホールがかつて考えられていたような永遠の牢獄ではないことを示唆しています。