近年、バッテリー技術は大きく進歩しています。しかし、バッテリーの長寿命化の需要には限りがありません。ノートPCとスマートフォンを1回の充電で1週間連続使用したい、電気自動車を数分でフル充電できないか、そんな要望もグラフェン電池ならば、すべて実現可能です。
グラフェンは現在、電荷貯蔵の分野で最も研究されている材料です。世界中のさまざまな研究所による研究結果は、グラフェンがエネルギー貯蔵業界に革命をもたらす可能性を裏付けています。
2004年に発見されたグラフェンによって、完全に丸められる電池、コンデンサの小型化、大容量で急速充電できるデバイス、透明電池など、今後10年でエネルギー貯蔵装置に多くの新機能がもたらされる可能性があります。
この画期的な技術について、既存のリチウムイオン電池との違い、グラフェンの用途、そしてなぜこれほど重要なのか、さらに深く掘り下げていきます。
グラフェン電池とは一体なにか
グラフェンは、二次元ハニカム格子に配置された炭素原子のシートであり、その独自の特性により「驚異の素材」として知られています。熱と電気の優れた導体であり、非常に柔軟性が高く軽量で、ほぼ透明、同じ厚さの鋼の100倍の強度があります。
二次元ハニカム格子に配置されたグラフェン内の原子
また、グラフェンは環境に優しく持続可能なため、幅広い用途で無限の可能性を秘めています。その有望な用途の1つは次世代電池です。
グラフェンは、金属空気電池、レドックスフロー電池、リチウムメタル電池、リチウム硫黄電池、さらに重要なことに、リチウムイオン電池など、さまざまな種類の電池と統合できます。グラフェンを化学的に処理して、陽極と負極の両方に適したさまざまな形にすることができます。
グラフェンで作られた電池は、携帯機器から電気自動車まで、すべてに電力を供給することができます。グラフェン電池は、既存の商用バッテリー(リチウムイオン電池)よりも、多くの電力を保持し、ライフサイクルが長くなります。
電池としてのグラフェンは、スーパーキャパシタとしても利用でき、超高速で充電・放電できます。実際、グラフェン電池は、我々の文明が最終的に有害な化石燃料を手放す助けとなる可能性があります。
従来の電池との違い
グラフェン電池の技術はリチウムイオン電池と類似しています。2つの固体電極と電解質溶液を持つことで、イオンの流れが可能になります。ただし、一部のグラフェン電池は固体電解質を備えています。
主な違いは、一方または両方の電極の構成要素にあります。従来の電池では、カソード(正極)はすべて固体材料でできています。しかし、グラフェン電池では、カソードはグラフェンと固体金属材料からなるハイブリッドコンポーネントで構成されています。
電極に使用されるグラフェンの量は、固体材料の効率と性能要件によって異なります。さらに、アノードとしてのグラフェンは、高容量で優れた速度能力があります。
現在の課題
近年、研究者は、市販の電池よりも優れたさまざまなグラフェンベースの電池を実証しています。しかし、この技術はまだ商業利用されていません。克服すべき主な課題が2つあります。
1.高品質のグラフェンを大量生産する効率的なプロセスの欠如
2.現状の非常に高い生産コスト
1kgのグラフェンの製造には数万ドルかかります。金額は、材料の品質要件によって異なります。現在スーパーキャパシタで使用されている活性炭は安価で入手できるため(15ドル/kg)、他の材料が商業市場に参入することは非常に困難です。
グラフェン電池の12の新機能
グラフェンは、まもなく、現在の技術では不可能な並外れた機能を持つ新世代エネルギー貯蔵装置を確立する可能性があります。
1. ACラインフィルタリングを備えたスーパーキャパシタ
垂直配向グラフェンシートをベースにした電気二重層キャパシタは、非常に高速(1ミリ秒未満)で充放電できます。ACラインフィルタリングのために、酸化グラフェン、グラフェンCNT(カーボンナノチューブ)カーペット、およびグラフェン量子ドットを含む数十もの材料の試験が実施されています。
このような超高速スーパーキャパシタは、現在電子機器で使用されている大型の電解コンデンサに取って代わり、電子機器をより軽量化・小型化する可能性があります。
2.柔軟なエネルギー貯蔵装置
既存のバッテリーとスーパーキャパシタには剛性があります。したがって、曲げると、電解液の漏れや電池の損傷が発生する可能性があります。しかし、グラフェンは、厚さ1原子で二次元シートの構造を持ち、損傷を与えることなく、垂直方向に曲げることができます。
この固有の機械的柔軟性に加えて、驚異的な電気的特性と表面積の大きさによって、グラフェンは柔軟な電池の有望な材料になっています。
3.伸縮可能な電池とスーパーキャパシタ
伸縮可能なエネルギー貯蔵装置は、マイクロハニカムグラフェンCNT(カーボンナノチューブ) /活物質複合電極と物理的に架橋されたゲル電解質の構造的伸縮性を利用して作成できます。
伸縮性基板上のグラフェンCNT /活物質膜 画像提供:ACS Nano
絡み合ったカーボンナノチューブとグラフェンシートを介して相互接続された活物質は、機械的に安定した多孔質ネットワークフレームワークを提供し、ハニカム構造の内側に突き出たフレームワークは、変形中の構造的伸長を可能にします。
4.急速充電リチウムイオン電池
グラフェンは電極内のイオンと電子の移動を高速化できるため、グラフェンを搭載したリチウムイオン電池は、はるかに短時間で充放電できるようになります。
たとえば、柔軟なグラフェンフォームにナノスケールのLiFePO4カソードとLi4Ti5O12アノード材料を搭載したリチウムイオン電池は、わずか18秒で完全充電できます。純粋なグラフェンをアノードで使用して、容量および充放電速度を向上させることもできます。
5.ウェアラブルデバイス用電池
同軸電極とコアシース電極の最近の進歩により、電極材料と集電体を1本の糸に組み合わせることが可能になりました。この糸は、布地に直接編み込む、または織り込むことができます。
グラフェンは、効果的に多機能マイクロファイバーへの組み込みや、布地への織り込みができます。グラフェンコアシースマイクロファイバーは、従来の製織方法を用いて生地に組み込み可能な、柔軟で伸縮性のある高い面積比容量を備えたスーパーキャパシタの実証に既に使用されています。
6.軽量デバイス用の超薄型集電装置
既存のバッテリーは、電極と外部回路間の電子の流れを促進するために、厚さ20〜80µmの金属箔集電装置(銅、アルミニウム、ニッケルなど)を使用します。これらの金属は電荷を蓄積しないため、バッテリーの全体的なエネルギー密度を低下させます。さらに、腐食を受け、セルの内部抵抗と寿命に悪影響を及ぼします。
一方、グラフェンは、より優れた代替集電装置です。導電性が高く、密度が低く、過酷な動作条件下でも安定して動作します。グラフェンは、表面に波紋やしわのある膜に容易に変換されるため、活物質との電気的接触が向上し、セル抵抗がさらに減少します。
7.透明電池とスーパーキャパシタ
その高い導電率と透明度(最大97.7%の透過率)により、グラフェンは透明電池の効率化で重要な役割を果たすことができます。透明なエネルギー貯蔵装置だけではなく、スマートウィンドウ、太陽電池、およびさまざまな光電子工学機器の電極材料としても使用できます。
8.長寿命電池
現在のリチウムイオン電池は、グラファイトアノードを使用しています。グラファイトをグラフェンに置き換えることで、エネルギー密度を高めることができます。
ラフェン電極は、折り畳まれたグラフェン紙、多孔質グラフェンフィルム、および溶媒和グラフェンフレームワークの形で、従来のグラファイト電極の3倍の容量を実現します。これにより、電気自動車の走行距離が延び、携帯機器の実行時間が長くなります。
容量と電力密度は、グラフェンアノードに窒素とホウ素をドープすることでさらに向上します。
9.固体電解質および分離器としての酸化グラフェン
酸化グラフェンは優れた電子絶縁体です。実用可能な固体電解質と電極分離器の両方として同時に使用できます。一部の研究によると、酸化グラフェン膜は、固体電解質として機能する際に、高い比容量を持ちますが、誘電体コンデンサと同様の検出できないイオン拡散を伴います。
これらの観察結果は、超高速、軽量で高いエネルギー密度を持ちながら、電解質漏れの危険の原因となりがちなイオン拡散の影響を受けないキャパシタの開発に役立つ可能性があります。
10.バッテリーのエネルギー密度を備えたスーパーキャパシタ
多孔質で高密度のグラフェンフォームで作られたスーパーキャパシタは、鉛酸電池に匹敵する超高エネルギー密度を持つ傾向があります。これらのグラフェンフォームは、グラフェンの基底面に小さな穴を開け、高度な油圧装置で圧縮することによって作られています。
従来のスーパーキャパシタに対するグラフェンスーパーキャパシタの主な利点は、水性電解質で動作し、高度な「ドライルーム」アセンブリなしで製造できることです。
11.半透性酸化グラフェン膜
酸化グラフェン膜は、さまざまな独自のバリア特性を示します。乾燥状態では、これらの膜は水蒸気を除くすべてに対して不浸透性です。水中では、モレキュラーシーブとして機能し、大きなイオンをブロックしながら、小さなイオンの輸送を促進します。
これらの機能は、スーパーキャパシタ、電池、および燃料電池用の新世代のイオン選択性膜の開発につながる可能性があります。
12.バインダーと無添加電極
バインダーと添加剤は、電極の質量の最大40%を占めますが、電荷を蓄積せず、全体的なエネルギー密度を低下させるため、「デッドマス」として知られています。
しかし、グラフェンは導電性の高い自立型の2Dおよび3D構造として組み立てることができるため、バインダーや導電剤を追加することなく、グラフェンを電極に直接組み込むことができます。
最近の研究
この10年間、科学者は既存の電池の包括的な電気化学的性能と信頼性の向上に焦点を合わせてきました。科学者により、グラフェンコンポジットを搭載した多くの異なるバージョンのバッテリーが開発され、試験が実施されています。
最適化されたグラフェン/シリコンナノコンポジットに基づくリチウムイオン電池
研究者らは、簡単なテンプレート化された自己組織化法を使用して、最適化された還元型酸化グラフェン/シリコンコンポジットを製造しました。グラフェンは、シリコンナノ粒子を均一に支え、分子間相互作用の強化と比表面積の増加によって、3次元ネットワークを形成します。
最適化されたRGO/Siコンポジットの合成戦略 画像提供:ACS Publications
還元型酸化グラフェン/シリコンコンポジットは、安定した固体電解質中間相シートとして使用でき、導電率と構造安定性の両方を向上させます。
グラフェンベースのパウチセル
グラフェンベースの準固体リチウム酸素電池は、既存のリチウムイオンポリマー電池よりも高い質量エネルギー密度および体積エネルギー密度を持ちます。グラフェンベースの準固体リチウム酸素電池は、3D多孔質グラフェンカソード、多孔質グラフェン/Liアノード、およびレドックスメディエーター修飾ゲルポリマー電解質で構成されています。
グラフェンベースのLi-O2電池概略図 画像提供:Nature
この研究は、大容量で安定したサイクルと充電過電圧の低減を備えた、安全で安定したリチウム酸素電池を開発するための新しい道を開きます。
容量性エネルギー貯蔵用のグラフェンラミネートフィルム
2020年に、ある研究者チームは、非常に効率的な細孔利用を備えた自立型グラフェンラミネートフィルム電極を設計しました。フィルムの層間間隔を調整することにより、多孔性を容易に構成できます。細孔が最適に利用されるため、体積比容量は最大になります。
柔軟なグラフェンスーパーキャパシタは、従来のスーパキャパシタの10倍のエネルギーを蓄積可能 画像提供:University College London
このタイプのスーパーキャパシタは、 5,000 回の充放電サイクル後も 97.8%のエネルギー容量を維持できます。また、非常に柔軟性があり、180度曲げたときに、平らに置いたときとほぼ同様に機能します。
レーザー誘起グラフェンベース電極
科学者たちは、単一パルスレーザーフォトニック還元スタンピングによって、柔軟なマイクロスーパーキャパシタを製造しました。この方法を使用すると、1,000個/秒の空間的形状レーザーが生成され、10分以内に3万個超のマイクロスーパーキャパシタを作成できます。
3万個超のMSCを1cm2の領域内に製造 画像提供:北京理工大学
このレーザー誘起グラフェンベースの電極は、卓越した比容量、非常に短い時定数、超高エネルギー密度、および長期サイクル性を示します。
市場
グラフェンの研究は、人の生活を向上させる見込みと共に、今後10年間拡大を続けるでしょう。2019年、世界のグラフェン電池市場は4,900万ドルと評価され、2027年までに約3億9,900万ドルに達すると予測されており、予測期間中に31%を超えるCAGR(複合年間成長率)が見込まれています。
市場の成長は、電気自動車、携帯用電子機器でのグラフェン電池の使用、および非従来型のエネルギー資源採用の急増によって牽引されています。自動車分野は、環境問題による電気自動車の需要増加により、最も高い成長率が見込まれています。
地域別に見ると、アジア太平洋地域が、グラフェン電池業界の最大シェアを占めると予測されます。需要の増加に貢献する主要国は、中国、日本、および韓国です。ヨーロッパは、世界のグラフェン電池市場で2番目に大きなシェアを占めるでしょう。