・原子核パスタは宇宙で最も強い物質として知られている。
・その密度は水の100兆倍近い。
・その強さを見積もるために、研究者たちは200万時間相当のシングルコア・プロセッサを必要とするコンピュータ・シミュレーションを行った。
原子核パスタは中性子星の地殻内に存在すると考えられています。中性子星の核とその表面の間では、クーロン斥力と核引力が様々な複雑な構造を持つ物質(中性子と陽子からなる)を形成しています。その形が様々な種類のパスタに似ていることから、原子核パスタと呼ばれているのです。
この物質を壊すには、鉄を割るのに必要な力の100億倍以上の力が必要になるでしょう。これは莫大な数字ですが、中性子星の物質はすべて非常に密度が高いため、通常、他の場所で見られるどの物質よりも強力なのです。
大質量星(太陽質量が10~29の間)の爆発により、高放射能で毎秒数百回回転する中性子星が形成されます。中性子星の直径は20km、質量は1.3~2.5太陽質量です。【太陽質量:天文学における質量の標準単位で、約 2×10の30乗 kg に相当】
中性子星は、クォーク物質、ハイペロン物質、100億ケルビンに近い超伝導や超流動、10兆ガウスを超える磁場など、奇妙な現象を示します。地球と比較すると、地球の表面の磁場は0.25~0.65ガウスです。【ガウス:磁束密度を表すCGS電磁単位】
中性子星の表面からおよそ1キロメートル下には、原子核が互いに密接に圧縮され、陽子と中性子の極めて高密度の混合物である核物質のクラスターに一体化するほど接近しています。
これらのクラスターは(理論上ではあるものの)シート状、チューブ状、塊状の形状に似ており、ラザニア、スパゲッティ、ニョッキなど、パスタに似ていることから、パスタと名付けられました。核の奥深くまで行くと、クォーク・グルーオン・プラズマ【高温・高密度状態において存在すると予想されているクォークおよびグルーオンからなるプラズマ状態】があります。
コンピュータ・シミュレーションによる強度の決定
原子核パスタの密度は、水の約100兆倍です。そのため、このような物質を実験室で分析するのは途方もなく難しいことです。このような物質の性質を探るため、科学者たちはコンピュータ・シミュレーションで原子核パスタのシートを引き伸ばしました。
中性子星内の原子核を押しつぶした後、物質の塊がラザニア(シミュレーションは下の画像の右側)、スパゲッティ(中央)、ニョッキ(左側)など、様々な種類のパスタの形になることを発見したのです。この研究では、原子核パスタが変形するのに最も高い圧力(既知のどの物質よりも高い)を必要としました。
出典:研究チーム
これらの複雑なシミュレーションはすべてスーパーコンピュータで行われました。実際にどれだけの計算資源を消費しているのか、大まかに説明すると、シングルプロセッサで200万時間、つまり、適切なGPUを搭載したノートパソコンで250年かかる計算です。
以前の研究では、中性子星の外殻も同様に鋼鉄よりも強度が高いことが示されていました。それでも、当時は地殻の内側については調査されていなかったのです。
現在では、中性子星の内殻はさらに強いことが明らかになっています。ただ、原子核パスタの証拠はまだないため、研究者たちはそれを探し続けています。今回の成果は、希望の光を与えてくれるかもしれません。
中性子星は非常に高速で回転しているため、重力波(時空の波紋)を放出し、それは地球上の大型観測所(LIGO【レーザー干渉計重力波観測所】など)によって検出される可能性があります。これらの波は、中性子星の地殻が非常に不均一である場合、つまり地殻内か地表に山か高密度物質の山がある場合にのみ発生します。
強固な地殻であれば、より大きな山を支えることができ、大きな波紋さえも発生させることができます。しかし、中性子星は重力が強いため、山はエベレストほど高くはならず、その大きさはセンチメートル単位(キロメートルではない)に制限されます。
今回のシミュレーションの結果は、原子核パスタがセンチメートル級の山を支える可能性を示しており、これは地球上で確認できるほどの波紋を生み出すのに十分な大きさです。観測所がこのようなデータを捉えれば、研究者たちは山の大きさを予測し、最も強い物質が中性子星の地殻にあることを確認できるはずです。