「デザインの鉄則」、今日は、「認知的不協和」という現象について考えます。
イソップ物語の「すっぱいブドウ」の話はご存知でしょうか。
おいしそうに実ったぶどうを見つけたキツネが、取って食べようと跳ぶのですが、どうしてもぶどうの高さに届きません。キツネは欲といらだちという2つの矛盾する感情を抱き、この感情のバランスを崩して矛盾を解消するために「あのブドウはどうせすっぱいに違いない」と決めつけるのです。
「矛盾」を抱えることは不快感につながります。
それでこのキツネのように、私たちは、自分の価値観と違ったり矛盾したりする情報を、意識的にも無意識的にも避ける傾向があるのです。
この現象は、心理学では「認知的不協和」と呼ばれています。
認知的不協和
つまり、人は内的な一貫性を求める傾向があり、内的な不一致は心理的に大きな負担になるということです。
不一致を引き起こす情報や行動を避けることで、人はバランスを保っています。
不協和が起きた場合の対処法はだいたい以下の4つにまとめられます。
1.行動と認識を変える(「もう金輪際肉は口にしない」と言う、肉を食べてしまったベジタリアン)
2.矛盾を引き起こしている認知を変更することによって、行動と認知を正当化する(「一週間に一回は肉を食べてよいことにしよう」と言う、肉を食べてしまったベジタリアン)
3.新しい認知を付加することによって行動と認知を正当化する(「後でランニングして余分なカロリーを消費しよう」と考える、後で結局ランニングしない若者)
4.否認、無視
こういった心理学的傾向を、デザインに応用して考えてみましょう。
認知的不協和をデザインに応用する
本当は必要ないのに、たまたま来ていた広告につられて無料サービスやお試しキャンペーンに申し込んでしまった……というのはよくあることです。
これは、「認知的不協和」と「フットインザドア」(最初に小さな頼みごとをしておけば、後々より大きな頼み事も聞いてもらいやすくなる)を利用した例として考えることができます。
デザインを工夫することでユーザにちょっとしたお願い事をきいてもらえれば、ユーザ側には、「必要ないのに登録してしまった」という認知的不協和が生じます。
そこで、ユーザがこの認知的不協和を自分で解消し、納得したころを見計らって少しずつ踏み込んでいく、というステップを踏むのです。
そうすれば、自ずとユーザに情報を提供してもらいやすくなったり、商品を購入してもらいやすくなったりしてユーザを取り込むことができると考えられます。
認知的不協和を使用した失敗例
ユーザ側に認知的不協和を生じさせる手法はとても効果的なため、マーケティングで頻繁に使われています。
ところが多くのマーケッターは、強引すぎたり図々し過ぎたりして、フットインザドアどころかドアから押し入っていくほどの勢いになってしまっているのをよく見かけます。
たとえば、しつこくポップアップを出せば、ユーザとのやり取りを確実に行うことはできますが、相手を尊重する姿勢を見せなければ良いエクスペリエンスは提供できません。
長い目で見れば悪影響しかないと考えられます。
最後に
認知的不協和を上手く活用できれば、ユーザを説得して“仲良く”なることができます。
相手を尊重することを忘れずに、ユーザにより良いエクスペリエンスを提供することを意識しながら、デザインに取り込んでみてください。
(※本記事は、Design principle: Cognitive dissonanceを翻訳・再構成したものです)